原歌:黒
講評:赤
講評への応答:紫
最終歌:青
宇津木千代
*ランドセル背負ひて伴に野の道を通ひし人の訃報受け取る
(北里)幼なじみの女の子でしょうか、男の子かもしれませんね。田舎の道を仲良く行く姿が目に浮かびます。旧知の方、それも同年代の方が亡くなると自分のことも思われて、ショックですね。寂しく複雑な気持ちにもなりますが、多くを語らず結句に託しているのが良いと思います。
(林)訃報を受け取るということは長年の親友でられたお方でなんですね。どのような人生を歩まれた方なのかは想像できかねますが、多くの友人とご家族に惜しまれてお亡くなりになられたのでは、、、。ご冥福をお祈り致します。
(深沢)昔、一緒に登校されていた方が逝去なされたのですね。通学路が野道だったというところから、昔の風情を感じることが出来ます。
(白樺)悲しい感情を抑えて客観的に歌われているところで更に幼友達を失った悲しみがしんみりと伝わります。
*ランドセル背負ひて伴に野の道を通ひし人の訃報受け取る
五つ目のカシオ電子辞書購ひぬ 終(つい)のものかと愛しみ触る
(北里)辞書は必需品、特に電子辞書は使いやすいので手放せませんね。心情のよくわかる歌です。私は捨てられないので買わないよう意識しているのですが、必要に迫られる最近は広辞苑を使う事が無くなり、すっかり電子辞書も使用頻度が減ってしまいました。(林)最近は広辞苑を使う事が無くなり、すっかり電子辞書も使用頻度が減ってしまいました。
(深沢)電子を使用しなくなり久しくなりましたが、荷物の整理をしていた時に昔の電子辞書が3台見つかりました。昔、大変お世話になったので、結局捨てることは出来ず電池を取り替えました。機械も毎日手にしていると愛おしさが感じられます。
(白樺)五つ目の電子辞書ということで作者は随分と長年にわたって言語と関わりを持ってこられたことが分かり、下の句で哀しくも感慨深い思いが伝わります。
(千代)私は、英文を読むときにはもちろん、日本語の文や歌を読むときにも辞書はかかせません。できるだけわからない言葉は直ぐに辞書を引くようにしています。ベットでそれをしますので、落としたり、蹴ったりで辞書は傷だらけで、強力な医療用テープで巻かれ、哀れな姿になってしまっていました。それでも何とか使えるときには我慢して使っていましたが、開け閉めが激しいので、ついに中に入っているテープのようなものが切れてしまって、4個目は何の応答もなくなってしまいました。そこで、5個目の電子辞書を買ったわけです。
五つ目のカシオ電子辞書購ひぬ 終(つい)のものかと愛しみ触る
小太りを褒める医師あり罹患時に脂肪は命支へると言ふ
(北里)小太りくらいの人の方が長生きしているデータ、ネットで見たことあります。コレステロールも持病がなければ少し高めくらいの方が良いという考えも。見た目も、少しぽっちゃりしているくらいが健康的で良いと思います。「罹患時」がちょっと固く感じます。(千代)この言葉は、結構いろいろな文章に使われていますが、まあ、短歌には硬い感じを受けるかもしれませんね。ただ、ちょうど5字で収まりもいいので、そのままにします。
(林)確かに小太りの方は平均的に寿命が長いと聞いた事があります。
(深沢)良い医師ですね。患者にきちんと向き合っていることが窺です。
(白樺)良くないことだと思っていたことでもいつか何かに役立つことがあるものですね。「万事塞翁が馬」のように。(千代)痩せたいのが私の願いで、小さくなった好きな洋服を、きっといつかは着られるようになるぞ、と保管してありますが、その願いは年々しぼんでしまっています。でも主治医は"そのくらいがちょうどいいんだから"と、慰めてくれます)林)確かに小太りの方は平均的に寿命が長いと聞いた事があります。
小太りを褒める医師あり罹患時に脂肪は命支へると言ふ
北里かおる
*旧友と揃いで求むお守りは群青色のランドセル型
(千代)二句目 “求む”は、終止形ですから“お守り”という名詞を修飾するには連体形でなければなりませんので“求むる”ですが、すでに求めたのですから、過去ですよね、すると“求めし”とするのが、いいと思います。
(北里)連用形ですね。いつもご指摘ありがとうございます。
(深沢)今迄見たことのない形のお守りです。お揃いというところがいいですね。
(林)ランドセル型のお守りってユニークですね。初めて聞きました。
(白樺)口語体では「求めたお守り」だと思います。
*旧友と揃いで求めしお守りは群青色のランドセル型
朽ちてゆく犬小屋晒す日の光 棲む主なきに季節の巡る
(千代)二句目”犬小屋晒す“ですが、字余りになっても”犬小屋を晒す“と、助詞の”を“を入れた方が、意味がはっきりすると思います。そうしないと犬小屋が日の光を晒す という読み方をしてしまいかねない。まあこの場合はそれはないでしょうが、助詞”を“ をいれたほうが自然に読めますね。
(林)作者の深く哀愁漂う視線を感じます。とても良いと思いました。
(深沢)初句から昔、住んでいた犬がいることが想像できます。寂しさ4句目から感じられます。
(北里)いよいよ実家を売却する運びとなり、2代によって使われた犬小屋も処分されることになりました。2匹目の命日でした。
(白樺)空になった犬小屋が日の光に晒されていて季節が巡っているところに悲しみが漂います。客観描写で良いと思います。
朽ちてゆく犬小屋を晒す日の光 棲む主なきに季節の巡る
三月は惜別のとき地下鉄に花束いだき涙ぐむ人
(千代)二句目“惜別のとき”ですが、ここでいう“とき”は、“時”ではなく季節という意味があると思います。“季”は、“とき”と読ませますので、“季”という漢字を用いて、もし気になるなら“とき”と仮名をふってはどうでしょうか?(北里)そうします。
(林)あの年は阪神大震災があった後にサリン事件があったのを思い出しました。あのような事件は二度と起こりませんように。(北里)サリン事件は3月でしたね。私も同様に祈ります。
(深沢)卒業式の帰りに遭遇した人を詠んでおられるのでしょうね。
(北里)送別会の後かと思いましたが、どちらともとれますね。
白樺)春は人生の節目の、卒業式、入学式、入社式などのおめでたい事が重なる季節でもありますが、同じ季節に悲劇に遭遇した人々もいることを想い多様な人間社会の悲しみを誘います。(北里)東日本大震災も3月でしたね。月日がたっても衝撃だった記憶、痛みは消えませんね。
三月は惜別の季(とき)地下鉄に花束いだき涙ぐ
深沢しの
作歌とは登山の如きものなると 征服感得る苦しみのあと
(北里)作歌に悩み抜く姿勢が素晴らしいと思います。「征服感」は、登山で「山を征服する」と言いますし、「困難を乗り切る」という意味で使ったと思いますが、「服従させる」感が強い言葉なので、「達成感」とかはどうでしょう。インパクト足りなくなりますか。
(千代)三句目の後に“思う”などの言葉が略されているようですね。
一例として 三句目を“ものなるか”として、四句目と結句を入れ替えて“苦しみのあとの征服感は”としてみました。
(林)征服感を得るまで頑張りたいものです。
(白樺)作者が山登りの如くに作歌に取り組んでいる意気込みが伝わります。一案として「如き」を削って、「歌作り一歩一歩と登りつめ征服感得る苦しみのあと」としてみました。
作歌とは登山の如きものなるか 苦しみのあとの征服感は
モーターをブルンブルンと唸らせて 流星のごと蜂鳥消える
(北里)蜂鳥の羽音をモーター音として比喩した切り口、面白いです。飛び去る時の羽音は一瞬まさにそんな感じです。「流星のごと」と比喩が続きますが、先の比喩を生かすためにもそこは略してそのまま続け、結句で消え去ってゆく場所や時間情報などを詠うと良いのではと思いました。
(千代)4句目と結句 工夫された自分の言葉でいいと思います。
(林)ユニークで微笑ましい歌ですね。
(白樺)前の歌と同様に「ごと」を削って魔法を使って蜂鳥を「流星」とすればより歌的になると思います。例えば「・・・流星になり蜂鳥消える」
モーターをブルンブルンと唸らせて 流星のごと蜂鳥消える
朋友と再会楽し京の秋 ランドセル型お守り求めし
(北里)朋友は学友など、その昔机を並べて共に過ごした親しき友かと思えて、再会の秋の京都の旅の楽しさが伝わってくる一首です。
(千代)二句目は“楽し”が“京の秋”を修飾しているので、連体形でなければなりません。“再会楽しむ京の秋” 結句は、“お守り求む”では如何でしょうか?
(林)ランドセル型お守り流行っているのですね。
(白樺)結句の助詞は口語で「求める」または文語で「求む」と思います。
*朋友と再会楽しむ京の秋 ランドセル型お守り求む
白樺ようこ
*六年間吾の背に付き添ひしランドセル赤色褪せて手に和む皮
(北里)自分のランドセルが手元にまだあることに感心しました。父も学帽をずっと捨てずに残していました。2句が字余りですので「共に過ごせし」としてはどうでしょう。「過ごす」とすることで学習道具を入れたり出したりする姿も見えてきます。
(千代)二句目が大幅に字余りになっていますね。「六年間吾の背になじみしランドセル・・・」
(林)6年も使用されたのは素晴らしいですね!自分は数年しか使わなくて皮が固いままだったのを思い出しました。
(深沢)昔は男子は黒、女子は赤のランドセルがお決まりでした。6年間も背負っていた様子を「背に付き添い」としたところがいいです。
*六年間吾の背に添ひしランドセル赤色褪せて手に和む革
二十余年父亡き後のツツジの植木春を忘れずたわわな蕾
(北里)咲いたらさぞきれいでしょうね。植物の生命力はすごいです。お父様が植えた木なら「父亡きあとも」でしょうか。歌で植物や動物の名前の表記は漢字が良いと聞いたことがありますが、「躑躅」とするのが良いのか、カタカナでも良いのか、どうでなのでしょう。
(千代)よく理解出来る歌ですが、もう少しすっきりと纏めた一例として、「父逝きて二十余年過ぐ 丹精のツツジは今年もあまたの蕾」
(林)上手く二十余年の時間が表現されていると思います。
(深沢)お父様が手塩をかけて育てられたツツジなのですね。春の訪れを喜び、蕾をたくさんつけてきっとお父様との再会を待っているような様子が表れています。
亡き父の丹精込めた躑躅の木 春を忘れずあまたの蕾
朝毎に祖父を真似して神棚に柏手を打ち心ひきしむ
(北里)おじいさまを真似てということですから、礼も拍手も正式な作法で丁寧にされているのでしょう。毎朝とはすごいです。結句は「心がひきしまる」のか「心をひきしめる」のか、どちらなのかなと思いました。(白樺:柏手を打って「心をひきしめよう」と意志を表しました。)(千代)4句目「・・・・柏手打てば・・・」
(林)柏手の音の響きが感じられてとても良い歌だと思います。
(深沢)身近な方の行為を真似をするが、その動作にその重みはしばし感じとられていたのですね。
朝毎に祖父を真似して神棚に柏手打ちて心ひきしむ
林よしこ
*ランドセル背負いし我は初めての一人歩きを楽しんでおり
(北里)「初めての一人歩き」とは生まれて初めてではなく、ランドセルを背負って初めて、の意ですね。入学式は親と一緒でしょうから、その後の登校または下校かと思うので、「我は」を「登校」か「下校」と言い換えると分かりやすいのでは。「おり」は第三者的視点のように感じます。
(千代)過去の出来事を現在形で詠うと、臨場感があっていいとは思いますが、“背負いし”と、過去形になっていますね。またここで詠われているランドセルは、現在の年齢にはふさわしくない事項であり、想い出を詠んでいることは明白なので、結句は「楽しんでいたり」とするほうがいいと思います。4句目の“一人歩き”は、短歌的には「独り歩き」が良いのではないかと思います。
(深沢)ピカピカの1年生が,親の手を離れて少し成長したことを、自分なりの楽しみとしていることが理解できる素敵な歌です。
(白樺)「一人歩き」という事で作者が人助けなしにようやく歩き始めた3歳頃のことが浮かびますが、ランドセルを背負って小学校に入るのは7歳ですので、この場合は「独り」が良いのでは。
*ランドセル背負いし我は初めての一人歩きを楽しんでいたり
プチプチと耳をすませば聴こえたる発酵の音 うちのコンブ茶
(北里)「コンブチャ」(表記そうなってました)という発酵食のことを初めて知りました。昆布は入ってないのにコンブの名が付いているのですね。以前は「紅茶キノコ」と呼ばれていたとか。菌の成長過程が見て分かるとのことなので、「発酵音」に納得。結句は「自家製コンブチャ」「手作りコンブチャ」とるすと明確になるのでは。「聴こえくる」とすると臨場感が増すと思います。
(千代)昆布茶ではないらしいですね。“コンブチャ”と、表記するようです。三句目“聴こえたる”よりも、作歌者がいる場所より、少し離れたところで“コンブチャ”が発酵しているように思えますので、“聴こえくる”としたら如何でしょう?
(深沢)ご自身で昆布茶を作られておられるのでしょうか。初句のプチプチという始まりが新鮮な歌だと思います。
(白樺)オノマトペが面白いと思います。「聴こえくる」としてみました。結句「うちのコンブ茶」で作者の家庭独自のものづくりの楽しさを想像させます。
プチプチと耳をすませば聴こえくる発酵の音 うちのコンブ茶
結婚を決めし息子の花嫁は 双子のように似ている不思議
(北里)まずは、おめでとうございます!双子なのは息子さんとお嫁さんでしょうか、詠み手とお嫁さんでしょうか。娘は父親似の人を選ぶという話があります。大谷翔平と奥さんが似ていることがちょっと話題にもなりました。自分や家族に似た人に親しみを感じやすいのだとか。
(千代)三十一文字しかない短歌ですから、常に語を削ることを考えて作歌するといいと思います。例えば「花嫁は双子のように息子(こ)に似いる その不思議さをしばし覚える」言いたいことが言い表せるなら、虚実を織り交ぜても可。そのために小道具を用いるのも可です。
(深沢)お嫁さんと息子さんが双子のように似ているのでしょうか。
それとも作者と似ているのでしょうか。想像を膨らませられる歌ですね。
(白樺)「結婚を決めし」ということで息子さんは婚約をしたということでしょうか。
そうしますと将来お嫁さんになる人はフィアンセということになるのと思いますので、例えば「結婚を決めし息子のフィアンセは・・・」
結婚を決めし息子のフィアンセは 双子のように似ている不思議
課題予告
5月「耐える」宇津木
6月「結ぶ」北里
7月「花火」林
8月「」深澤
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