2019年12月9日月曜日

11月の歌と合評





担当:深沢しの

元 歌:    地下街に恒例となり菊花展行き交う人の空気変えたり
最終歌:   地下街に恒例となる菊花展認知症の母連れだして見る


 11月の歌は題詠歌で北里かおるさんの歌を選びました。地下街で菊花展が行われているということにとても興味を覚えました。地上ではなく、地下で行う理由と場所の有効活用が素晴らしいと感じました。北里さんが“歩行空間が別世界になった”と加筆していましたが、見慣れた風景をまるきり別の空間に変えるということのインパクトの強さがどれだけそこを通過する人の心を和ませるのか嬉しい気持ちにかられました。
 自分では遠い昔、明治神宮で菊花展を見て、花の醸し出す色彩を楽しんでいました。時代が変わるにつれ、伝統的なものも姿や形を変えていくのだと、浦島太郎になった気分で味わうことができた1首でした。


<合評>
 (千代) ・・・慣例となる菊花展ではないですか? なるは菊花展を修飾しているのですから、終止形ではなく、連体形になるはずです。意味はよく分かりますが、空気変えたり空気が気になる言葉ですね。(北里)連体形で「なる」となるのですね。了解です。「恒例」は調べましたがこちらの漢字表記で良いと思います。歩行空間が別世界になったことを言いたかったのですが、最終歌では視点を変えました。
(白樺)季節感のあるお歌です。どの地方の催しとかが分ると具体性がでます。「空気を変える」と結論を出さずに何気ない具体描写でそれとなく空気が変わっていることが伝わると余韻がでるようです。
(深沢)地下街で菊花展が行われているとは驚きです。場所はどこでも可能なのですね。秋を感じる風情のあるものですね。(北里)1963年から毎年11月上旬に行われている「さっぽろ菊まつり」では地下歩行空間や地下街オーロラタウンで3日間行われます。丹精込められた千点もの菊が並びますので、見ごたえがあります。大臣賞や知事賞など入賞作品を見るのも楽しみです。

2019年11月10日日曜日

2019年10月の短歌と合評



担当:北里                                                                                                             

 歌: 競歩にて2020にかける夢 メダルを手にした友を祝う
最終歌: 金色のメダル手にせし友祝う 夢は競歩で東京五輪へ

 10月の歌は、話題性があり深沢しのさんの歌を選びました。
鈴木雄介選手は今年9月に行われたドーハ世界陸上の男子50km競歩で金メダルを獲得し、東京オリンピックへの出場が内定しました。深沢さんはこその結果を受けてこの歌を詠われたものと思います。調べましたら、鈴木選手はいろいろと優れた結果を残している実績ある選手で、男子20km競歩の世界記録保持者でもあるそうです。夢ではなく現実のものとして東京五輪でのメダルが期待できますね。
元歌の「2020」「メダル」でも理解はできますが、最終歌で「東京五輪」「金色のメダル」としたことで、友である鈴木選手が目指す方向性ががハッキリし、すっきりしたと思います。
東京五輪が8か月後に迫るこの時点でマラソン・競歩の札幌開催が決まったことは、札幌市民としては突然のことで驚きもしましたが嬉しくもあり、賛否両論ありますが、決まった以上素晴らしい大会になって欲しいと願っています。鈴木選手を沿道で応援したいです。
                                                                                                              
<合評>
(北里)世界陸上が終わったばかりで、強い日本が記憶に新しいです。メダリストは詠み手のご友人なのでしょうか。どの選手ですか。鈴木雄介選手です。オリンピック世界選手権で金メダルでした。東京オリンピックのマラソンと競歩が札幌開催となるようです。応援します。
(白樺)上の句は作者自身が来年の競歩に夢を賭けているともとれますが、競歩に参加するのはご友人なのですね。下の句では過去にすでにメダルを獲得してるようですが、未来に夢を賭けるということですから下の句も例えば未来形に統一するとよいのでは。

2019年10月6日日曜日

九月の歌と合評

担当:白樺

今月は深沢しのさんの歌をとりあげます。

原歌:水揚げの悪ければ採らず手の届くモリンガの葉のふさふさ茂るを

(千代)この歌は、結句から初句につながるのですか?手の届くモリンガの葉はふさふさ茂っているけれど水揚げが悪いので採らなかった、ということでしょうか?もし、それが作者の意図した歌なら、「手に届くふさふさ茂るモリンガは水揚げ悪ければ
(北里)モリンガはフーパーフードとして今話題で商品化されて販売されているようですねね。「水揚げ」は漁獲のことかと思いましたが、花の水揚げ処理のことでしょうか。水が揚がっていなければ葉がふさふさしていないのではと思いましたが、どうなのでしょう。
(白樺)作者の着眼点はふさふさとした珍しい(今話題?)モリンガの葉だと思いますが、二句目の「悪ければ採らず・・」の字余りが少し気になり説明的に響きます。

倒置を用いた歌で、上の句でまず動作の理由「水揚げが悪いので」と動作「採らず」が目に飛び込んできます。下の句を読むまでは何を採らないのか分かりません。散文的には「採ってしまうと水揚げが悪いので手には届くがふさふさ茂っているモリンガの葉を採らない」となるところでしょうか。短歌を始めた頃の基本として、分かり易い、心がこもっている、上の句と下の句の関係等を習いましたが、上の句と下の句の関係が少し曖昧で焦点が分散してしまっている感じもします。歌の心は手に届くモリンガの葉がふさふさ茂ってるが切ってしまうと折角みずみずしいモリンガの葉が枯れてしまうので採るのを躊躇した作者の心が伝わりますが言葉の順序を置き換えた最終歌では、

手に届くふさふさ茂るモリンガを水揚げ悪ければ採るをためらう

構成的には原歌よりもすっきりしましたがまだ少し散文調の感じもします。

2019年9月9日月曜日

2019 8月の短歌合評

担当:宇津木千代


元歌: *隅田川の花火の遠音を聴きながら夏の夜空を見上げてゐたり               最終歌:*隅田川の花火の遠音聴きながら下町の夜空を見上けてゐた
白樺さんは、花火という題詠で三連作を出詠しました。その第一首目を今月の短歌にとりあげました。作歌者の実家は東京下町にあり、スカイツリーも眺められ、夏の情緒豊かな、有名な隅田川の花火大会も見える場所に位置しています。幼いころから見慣れている懐かしい花火と下町の夏の風情が懐かしく詠われています。




元歌:隅田川の花火の遠音を聴きながら夏の夜空を見上げてゐたり
最終歌*隅田川の花火の遠音聴きながら下町の夜空を見上けてゐたり
 
(千代)‟遠音“の後の助詞 ”を“ は、いらないのではないですか。きわめて平らかな表現ですが、過ぎ去った古き良き日を自ずから思い出させます。
(北里)遠くに音だけが聞こえていて、実際には花火は見えないのに、それでも空を見上げている、という内容ですね。浴衣姿で団扇でも扇いでいるいるのかなと思うと風情があります。
(深沢)ご実家が東京でいらっしゃるので花火となると隅田川となるのは理解できますが、白樺さんが通常詠われる味がないように感じます。綺麗な短歌なのですが、なぜか心が打たれません。違う歌にも同一の夏の夜空が使用されていて歌が似通っています。4句目と5句目で遠くで聞こえる花火の音から思い出すことなどが詠えないでしょうか。

スカイツリーを窓より眺むる家にゐてビールで涼む蒸し暑き夏
スカイツリー窓より眺むる熱帯夜 喉を潤すビールの冷たさ

*隅田川の夏の夜空の祭典に暑さ吹き飛ぶ打ち上げ花火

隅田川の真夏の夜空に美を競ふ打ち上げ花火に吹き散る猛暑