赤:講評
紫:作歌者の応え
青:講評を参考に推敲した最終歌
好きなだけ伸びていいよと言えなくて胡瓜の新芽摘んでしまいて
(千代) 結句“しまいて”は、促音になるはずで、“しまって”が普通使われます。先日も新聞記事で、犬が認知症になり、夜中になき止まないので、近所から苦情がたくさん来て、老いた未亡人の方はその犬が唯一の肉親のように可愛がっていたので、殺処分はとても出来なくて、獣医師に声帯を取って貰ったという哀しい記事を読みましたが、ある意味この歌にも通じるものを感じました。結句は“しまった”“しまう”“しまいぬ”とかが入れ替えられるかな?(北里)過去形は「しまいし」になるのかと思ったりしましたが、「しまいぬ」になるのですね。口語で統一します。
(千代:過去形の終止形は“しまいき”です。“し”は過去の連体形です。“しまいぬ”の“ぬ”は、完了形です。
(白樺)本当は胡瓜の葉をもっと伸ばしたかったのだが間違って新芽を摘んでしまったのか、あるいは他の胡瓜の実を大きくするためにわざと新芽を摘んだのですか?伸びていいよ言いたかったのだが新芽を摘んでしまったのでという意味でしたら、三句目を「・・伸びていいよと言いたくも・・」結句を「・・摘んでしまいぬ」ではどうでしょうか。
(深沢)きっと正枝のために双葉を摘まれてしまったのでしょう。自分の思いと違う行動に出て閉まったことを詠まれてたのですね。
好きなだけ伸びていいよと言えなくて胡瓜の新芽摘んでしまった
*皆のいたあの日へ思い馳せながらもう一つ灯す線香花火
(千代)四句目“灯す”でもいいのだとは思いますが、私の感覚ですと“灯す”は静かな中で、静かに火が揺らめきながら点く、という感じなのですが、線香花火ですと“灯す”という感じではなく“点ける”という感じですが、如何でしょうか?(北里)確かにそうですね。
(白樺)夏の風物詩の線香花火とお盆の時期でもあり先祖を思う気持ちが伝わります。
(深沢)線香花火は、火をつけてから火の玉が落ちるまでに燃え方が違い、繊細さや儚さがきわ立つ中、表情豊かですね。幼少の頃から彼岸花を想像させてくれていました。花火をするということはこの数十年無いので懐かしく昔を偲びました。
(北里)蕾⇒牡丹⇒松葉⇒散り菊 氷玉の移ろいの名前です。
*皆のいたあの日へ思い馳せながらもう一つ点ける線香花火
炎天の静寂破りサイレンは馳せてゆくなり一陣の風
(千代)一首題詠はあるので、サイレンが馳せるよりも、走るとしてはどうでしょうか?「・・・・サイレンは一陣の風残し走り行く」と。(北里)そうですね。「走る」で十分ですね。「一陣の風」は通り過ぎてしまうので、残らないのではと思います。いずれにしても、結句は付け足した感じが気になっていました。
(千代:ここで使っている一陣の風は、救急車が通り抜けることによって、起こされた風のことでしょ?わたしはそう取りましたが・・・すると“風を残し”でもいいのでは?
(白樺)外は炎天下で静まりかえっている中を風を切って救急車?のサイレンが通り抜けていく情景。「炎天下の静寂破り・・」ではどうでしょうか。(北里)正しくは「炎天下」ですよね。自分としては「炎天の静寂」と、焼け付く空を前に出したかったので、微妙なニュアンスの違いに悩みました。
(深沢)救急車、消防車、パトカーなどのサイレンが通り過ぎていく様子が、今夏の酷暑の中でよく詠われていると思います。
炎天下静寂破るサイレンは一陣の風吹き抜けるごと
宇津木千代
チャップリンのサイレントムービー観るに似て 会話なき病む夫との食卓
(北里)人には分からない介護の心情を垣間見る歌です。白黒の音無き世界を見せることで、字余りでリズム崩れますが、苦しい胸の内が伝わってきます。チャップリンということで喜劇に見立てているのが切ないです。「病む夫との会話なき食卓」がすんなりきますが、「会話なき夫」を強く言いたいのかもしれません。「観る」も省略可能ですが、自分たち二人を客観的に観ている自分がいて、詠み手にとっては大切な一語なのだと思います。(千代:まさしく、そういうことです)
(白樺)夫婦の食卓を囲む情景をチャプリンの無声映画に例えたところが面白いと思います。長年連れ添ったご夫婦は言葉に出さなくとも「ああ、うん」でどこか通じ合うことができるのでしょうか。どちらかが病で特に会話が少ない食卓に悲哀が漂います。
(深沢)心の痛む1首です。食を共にする人が側にいるのに、無言で会話の無い食卓であるとは何と哀しいことでしょう。読み手に1語1語が沁みる歌だと感じます。
チャップリンのサイレントムービー観るに似て 会話なき病む夫との食卓
家中の寝静まるを待ち躍り出すAB型の吾のBタイプ
(北里)面白い切り取りです。血液型占いはアメリカ人はあまり関心がないと聞きますが、日本人は好きです。B型といえばマイペースなイメージが強いですが、調べたら、迷うより先に行動、夢中になる、常に前へ前へ、などが挙げられていました。「タイプ」ではなく「血」が躍り出す、とするとよりはっきりするのではと思ます。「吾のBの血は(や)」とか…。千代:血という言葉をあまり使いたくなかったのですが、三句目に“躍り出す”とあるので、吾のBの血が とした方がいいかもね)
(白樺)作者の血液型はAB型なので臨機応変にA型とB型を使い分けているところが面白いですね。
(深沢)自分自身をよく観察されておられるのですね。愉快な切り取りなので自分の血液型についてももっと調べて、行動が伴っているかを考えたくなりました。
家中の寝静まるを待ち躍り出すAB型の吾のBの血が
*夕焼けに惹かれ車馳す アクセルを踏み込み明日を追ひかけようと
(北里)「車馳す」と「アクセルを踏む」は合わせて「夕焼けにアクセル踏み込み車馳す」とすると「馳す」がより生かされて良いのでは。結句の「追いかける」行為が「惹かれ」る気持ちを表しているので、なくても良いかと思います。(千代:この歌は二段階になっています。まず、夕焼けに惹かれて車を駆り、そうだ明日を追いかけようとアクセルを踏み込むのです。最初からアクセルを踏み込む分けではないのです。)
(白樺)「明日を追ひかけ」が詩的です。題詠が「馳す」なので「車馳す」なのでしょうが、「アクセルを踏み込み」と重複しているような感じです。「夕焼けに惹かれアクセル踏み込みて明日を追ひかけ馳せてゆく」とか。
(深沢)自然の中での綺麗な夕焼けだったのでしょう。そのままアクセルを踏めば未来があるという思いで、踏み込んだことを詠まれたことと思います。
*夕焼けに惹かれ車馳す アクセルを踏み込み明日を追ひかけようと
白樺ようこ
*灼熱の八月の空のふるさとに思いを馳せる原爆記念日
(千代)初句を二句目と入れ替えて、“思い”を憶ひとして、「八月の灼熱の空のふるさとに憶ひを馳せる原爆記念日」としてみました。ただ初句から四句までが、原爆記念日を修飾する連体修飾語となり、散文的になってしまいますね。
(北里)式典をTV視聴し私も黙祷しましたが、遠くアメリカの地にても思いは同じなのですね。「八月の空」で切って後ろの「の」は省略すると良いのでは。詠み手の頭上にも故郷へつながる青空が見えてきます。先日、ロンゲラップの人々の苦しみを、TVで初めて知りました。かつての核実験でも多くの人の人生を狂わせているのですね。胸が痛くなりました。
*八月の原爆記念日巡り来て憶ひを馳せるふるさとの空へ
八月の亡父の命日巡りきて戦に散りし命と重ぬる
(千代)結句が連体形で終っていますね。終止形は“重ぬ”ですが、連体止めにしたのには意味がありますか?(白樺:文法の間違いです。)
八月の亡父の命日巡りきて太平洋戦争(いくさ)に散りし命と重ぬ
注:”太平洋戦争”は朗詠する時は ”いくさ” と詠みたいと思います。)
ハイキング時速二マイルに追いつけと息切らし歩むニア山麓
(千代)結句はレニアのタイポ?(白樺:タイプミスです。)時速二マイルを出しているのは何なのですか?(白樺:ハイキンググループのハイカー達です。)
(北里)1時間で約3キロを進むのは、早歩きを続ける感じなのでしょうか。追いかけているのは、人ですか、それとも雲かしら、ちっと謎かけされた感じです。人だとしたら競争でもないのになぜ追い付かなければならないのか、ゆっくり歩いてレニア山麓まで、でもよいのでは、と考えてしまいます。(白樺:グループでの山歩きは速すぎても遅すぎても自分勝手の速度で歩くと道別れしているところがあるので道に迷ったり、最悪の時は遭難したりすることがあるのでお互いに見失わない程度の距離を保って歩くのです。)
(深沢)何を追いかけられているのでしょうか。健康のため楽しむためのハイキングなのですが、これは競技の1部であり4,そのために追いかけようとされているのでしょうか。
ハイキング時速二マイルに追いつけと息切らし歩むレニア山麓
深沢しの
仲良しの証のごとく連弾に揺れる二つのポニーテール
(千代)いいですね。このごろの視点、感性が自然に表現されていてとてもいいと思います。
(北里)愛らしい切り取りです。連弾の二人の少女のポニーテールがゆれているのが目に浮かびます。「証のごとく」が良いと思います。
(白樺)下の句の具体的な描写が良いと思います。
仲良しの証のごとく連弾に揺れる二つのポニーテール
性格の詰め替えパックがあるならば優しさがかなり減ってきており
(千代)この歌の視点もいいですね。「性格の詰め替え予備があるならば交換時なり 優しさ減りぬ 」としてみました。
(北里)こちらも楽しくて面白い切り取りです。詰め替えパックを取り換えることに言及する必要があると思うので、「が」をとって、「優しさの詰め替えパックあるならば取り替え急務かなり激減」とか。
(白樺)上の句「・・パックがあるならば」の仮定的表現を「性格の詰め替えパックの優しさはひとつふたつと減ってくるなり」としてみました。
優しさの詰め替えパックあるらば取り替え急務かなり激減
湯の中でふと口ずさむミルクムナリ エイサーの基本に思いを馳せる
(千代)基本ということで、言いたいのは、沖縄の歌と踊りの発祥のことですか?
(北里)「ミルクムナリ」は、ほとんどの人は知らないと思うので注をつけると良いのでは。ネットで見ましたが、見ごたえがあり、切れが良くて、とても素敵でした。エイサーをなさるとは、行動範囲が広いですね。「エイサーの基本」はネットを見ると隊形のことなどでしたが、この歌では何のことなのかしら。「湯の中」は省略しても良いと思うので、その字数で読み手にも、もう少し分かるような内容を加えると良いと思います。
(白樺)「ミルクムナリ」は沖縄の踊りですね。ミルクムナリは観たことがありませんのでインターネットの動画で観てみました。勇ましい踊りですね。踊りの動作とか音の特徴が歌で表せると良いと思います。
*エイサーの太鼓響きて盆来る 思いを馳せるミルクムナリ
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