2017年7月30日日曜日

7月の歌と合評

「ティリリリー終了告げる洗濯機 吾の出番のそり立ち上がる」

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 担当 中井久游

 今月は「北里かおる」さんの歌を取り上げてみました。

 今年は俵万智の「サラダ記念日」から30年目を迎え、改めて彼女の歌を再考察する動きが見られます。5冊の歌集を出していますが、ほぼ口語だけを使い、「句またがり」を特徴とする破調を用いて独特のリズムを持った歌を沢山残してきました。当時はこのライトバースの歌に対して賛否が相半ばしていましたが、今では短歌に革命を起こしたことを否定する人はいないでしょう。師である佐々木幸綱の「なめらかな肌だったっけ若草の妻ときめてたかもしれぬ掌(て)は」とか「サキサキとセロリ噛みいてあどけなき汝(なれ)を愛する理由はいらず」などの歌に影響を受けているのも確かなことです。

 先人が踏みとどまって来た一線を超えた俵万智の歌は、その愛唱性と暗誦性にあります。破調でありながら自然に覚えてしまうのは、イメージと響きと音数のバランスを(無意識か意識的かは別として)かなり計算されて作られているからです。
 今回の北里さんの歌も下の句が、リズムは五・八の「句またがり」になっている。「一字空け」と「句またがり」に俵万智に通ずるものを感じた訳です。片仮名のオノマトペを頭に持って来て、まず音を想起させ、下の句でゆったりとした動きを見せる。素晴らしい一首だと思います。


 (千代)日常をよく捉えていますね。“のそり立ち上がる”で、作者の心情がよく表現されていて、読者がいろいろなイマジネーションを持てますね。
 (白樺)このお歌も現代的で面白い切り取りと思います。上の句と下の句の間を空けたところがよいですね。
 (中井)機械に急かされている現代人の一こまを歌っているように読めます。機械は張り切っているのに、自分は気が乗らないけったるい感じ。下の句の前を一字空けにし、その後を「字足らず+字余り」にしてそのかったるい雰囲気を表現している。破調の、かなり計算された歌だと感心しました。
 (深沢)便利な世の中になりましたね。殆ど家電まかせですね。


 穂村弘は「多くの歌人がいまだに文語を引きずってつくるのは、その情報量の多さや感情の微妙さが作り出す世界像に惹かれているから。」「透明な言葉を無限に重ねれば、全宇宙をあらわす一首ができるはずというような妄想がある」と言っています。


1 件のコメント:

  1. 7月30日の中井さんのブログについてひとつ質問です。
    稲村弘の引用文「透明な言葉を無限に・・」の「透明な言葉」とはどんな言葉を指しているのか分かりません。本の題名も合わせて掲載して頂ければと思います。

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