2017年6月29日木曜日

六月の短歌と合評



担当:宇津木千代 

 
今月は白樺ようこさんの歌を取り上げました。 


原歌:頂上の岩場に立ちて眺むれば薫るみどりは額にすがしき


最終歌:頂上の岩場に立ちて眺むれば波打つみどりに疲れ吹き飛ぶ

最終歌としてはまだ物足りないものがあります。結句で結論を出してしまっているからです。この結句は言葉では表さず、読者をして”疲れも吹き飛んだだろうなあ”という感じをもたせればいいのであって、結論を出してしまうと、読者の想像の余地がありません。また、”疲れ吹き飛ぶ”という成句も常套句ですね。しかし、この歌を取り上げたのは、常套句ではなく、岩場に立って溢れるほどの緑を眼下に眺めた時に、原歌では”薫るみどり”という、使い古された常套句を指摘されると、”波打つみどり”と表現を変えた点に、注目をしました。読者にも”薫るみどり”よりも”波打つみどり”と、活き活きした表現の方がより情景がアピールしてくるのではないでしょうか。自分の表現、個性とは、こういうことを言うのです。そのことを伝えたいと思い、今月は白樺さんの歌をとりあげました。

 (千代) 「薫るみどり」という既成の言葉が先にきてしまって、その言葉をそのまま使ってしまう、ということはよく起こりがちですが、創作者としての歌人は、既成の熟語や常套句を排除して、まず全身心での感じを、言葉化することが、歌人としての矜持ではないか、と思います。難しい言語や装飾された言葉を使う必要はないと思います。生きている言葉、読者が「ああそうか」と感じられる表現を工夫し,創っているいくことが大切だと思います。
(中井)何だか良くまとまっている歌なのに、スーと流れて行ってしまいました。
(北里)頂上は「岩場」でも、眼下には薫るほどの「みどり」が広がっているのでしょう。「額にすがしき」はなぜ「額」なのかなと思いました。
(深沢どこか山登りに行かれたのでしょうか。そこから見える景色の様子が手に取るようにわかります。


2017年6月12日月曜日

五月の歌と合評

担当:白樺ようこ

今月は北里さんの以下の歌をとりあげました。

原歌:           妹が母に電話をしないのを何故とは問えずに距離感つのる
最終歌:        妹の母への電話途絶えるを気にかけつつも時の過ぎ行ゆく

歌は心理的な状況を描写しています。原歌は散文調でそのまま日記に書き留めているようでもあります。講評を参考にした最終歌は少しの言い回しや文法的な改善を取り入れることで歌のリズムが出て滑らかな響きになりました。「距離感」「触感」「食感」「違和感」等「・・・感」というような言葉が口語に多く見られますが短歌ではそのような感じ方を少し離れて客観描写することでより歌の深みが増すようです。



(千代)上の句が散文になってしまっていますので、もう少し工夫が必要と思います。例えば「妹の母への電話途絶えるを・・・・・」とか。
(中井)兄弟姉妹の関係には必ずと言っていい程についてまわる、親に対する対応の温度差ですね。結句をもう少し含みを持たせる表現にすると、もっと読み手の心に響いて来るように思います。
(深沢) 親子でも話しにくいこともあるものですね。時間が経てばきっと話せる妹さんでしょう。
(白樺)人間関係を歌にするのは難しいですが、自己に基づいた身近な着眼点がよいところですが、語彙、韻律、想像力で詩的な表現になると余韻が生まれて訴える力が増すと思います。