2016年9月25日日曜日

9月の合評

担当:宇津木千代


今月は白樺ようこさんの歌をとりあげます。

*地中海の陽射しも一緒に煮込むでゐるソースことことつぶやくオリーブ

 この歌に対していろいろな理解が出てきましたが、抽象的な歌である場合、様々な理解が可能ですが、具体が詠われている時には、出来るだけ誤解は避けたいもので、避けるには、誤解を生むような表現は避けるべきだと思います。三人の講評者が居て、二人がこの歌の場所を、地中海が見えるところで料理をしている、と理解しました。理解力が足りない、というよりも、歌の歌い方に誤解が生じるような部分があったのではないか、と思います。そこで、下記の私(千代)の評となったのですが、その部分を自己推敲の時点で、しっかりと取り入れてくれ、下記の最終歌、となりましたが、最終歌は、本当にすっきりとして、誤解のないような歌となりました。

(千代:「煮込むでゐる」は、「煮込みゐる」では?煮込みゐるは、ソースにかかるのですよね?ここで詠いたいのは、オリーブ油でソースを作っているので、地中海の光を浴びてでできるオリーブだから、陽射しも一緒に煮込んでいる、と詠ったのですよね?(白樺:はいそうです。) 上記の私の理解が正しいなら、読者に分かりやすくするためには、語順を変えたら如何でしょうか。例えば「・・・・・煮込みゐるオリーブソース・・・・・」結句は分かりませんが、煮込んでいるのは作者ですから、オリーブを擬人法で使わないで、ナベの中のオリーブオイルの状態を詠ったほうがいいのでは?
(中井)地中海の見えるところで料理をしていると読めます。ドミトリーのようなところに滞在しての歌なのかも。
(北里)地中海という場所で「陽ざしもスープに煮込む」とう発想がいいですね。「スープことこと」はオリジナルな表現がでるといいのでは。オリーブは何と呟いているのか、そこを擬音化するとおもしろいのでは。「煮込むでゐる」は旧かなづかいでなくても良いのではと思いました。

最終歌:*地中海の陽射しを運ぶオリーブの赤茄子ソースをことこと煮込む

2016年9月21日水曜日

8月の合評

合評担当 宇津木千代




 今月は中居久游さんの歌を取り上げます。
原歌; どの部屋も高齢者らで埋まりゐる病棟ゆるくへの字に曲がる

 この歌には発見があります。小さな発見ですが、おそらく 短歌を詠んでいない人が、高齢者の多い病棟の廊下がゆるく曲がっているなあ、と気づいても、そのままで終わってしまうと思いますが、短歌を日常的に詠んで いる人は、その気付きが歌となって表現される、と思います。それは、その人がこの世に生きている命が、言葉となって残されていくことではないでしょうか。 時には詠うことで、生きづらいこの世の中を乗り越える力が湧いてくることもあると思います。日々の気づきを大切にして、それを表現する何らかの手段を持っ ていることは、一つの幸せにつながることと思います

会員の講評
 


 (千代)  高齢者を出して、“ゆるくへの字に曲がる”ととらえたところは、とてもいいと思いますが、病棟がへの字に曲がるのですか?この歌からは廊下がへの字に曲がっているのではないか、と推察しましたが?
(中井)そうです、病棟の廊下です。病棟が曲げて作ってあるので廊下も曲がっているわけで、そこまで言わずとも分かる
と思います。
(北 里)超高齢者社会の日本をユニーク視点から詠んでいて面白いです。「ゆるくへの字に曲がる」とは本来の90度が少し広がって曲がっているということなので しょうか。高齢者を考えて作られた廊下かどうかわかりませんが、そうであれば廊下は遠くまで見通せてやさしい設計ですね。初めて聞きましたが、未来的なデ ザインなのでしょうか。(中井)私の感覚ですが、真っ直ぐではなく160度ぐらいの角度で曲がって
いるのです。 高齢者を考えて作られた廊下かどうかわかりませんが、そうであれば
廊下は遠くまで見通せてやさしい設計ですね。確かに真っ直ぐな廊下よりも柔らかい感じを受けました。
(白樺)結句の「への字に曲がる」の視覚にうったえる表現がよいと思います。

(中井)「くの字」ではなく「への字」というところに気を引かれました。高齢者施設ではなく一般の市民病院なのですが、入院患者は高齢者ばかりです。入院患者への配慮
が感じられる設計ですね。