2017年2月27日月曜日

2月の歌の合評


担当 中井久游




北里かおるさんの歌を取り上げてみます。お題は「日記」

 元歌は
  *大雪の始末に追われ三日分まとめて記す日記家計簿

 推敲後の歌は


  *戦いの相手はドカ雪 三日分まとめて記す日記に家計簿

 題詠の場合は、当然そのお題の言葉を設定してそこから歌のイメージを広げていく訳ですが、雪国に住んでいる作者は日々の暮らしの中で雪と格闘している。そしてそれが日記にストレートに反映するわけでしょう。事実をそのまま詠んでは読者に訴える歌にはなりません。俵万智さんが行っているように、ある程度の脚色が必要になって来るんですね。
 推敲の結果、元歌にはなかった具体的な言葉として、「ドカ雪」と「戦い」が出て来ました。そのことで歌が大きく動き出し、状況がクッキリと浮かび上がって来きます。三句以降が元歌に比べて実感の籠ったニュアンスとなり、とてもいい歌になったと思います。

 

(千代)大雪で大忙しとなり、毎日付けている日記家計簿も付けられなくなった、それほど忙しかった、という主旨でしょうか?日記という題詠ですから、止むおえない、と思いますが、歌としての盛り上がりが欠けるようにも思います。
(白樺)三日分の日記や家計簿を一度にするとはすごいですね。降雪量の多い土地に住む苦労。「雪の始末に追われ」ているという単刀直入な切り取りではなく、例えばシャベルで雪かきをしながらだんだん山なっていく雪の描写を日記や家計簿と重ねることも一案かと思います。
(中井)雪国では多い日は、日に何度も雪かきをしなければならないと聞きますが、その大変さが良く出ています。「日記家計簿」は、語数を合わせるためにこうなったのでしょうか?「日記と家計簿」とするか、家計簿を兼ねた日記なら「家計簿日記」とすると収まりが良い様に思います。(北里)短い日記を書く欄のある家計簿なのですが、分けて表現することにします。
(深沢)雪の始末を考えても想像がつきません。さぞかし大変なのでしょうね。日記家計簿とは良いアイディアですね。(北里)こちらではママサンダンプというもので雪を運びます。屋根に登って雪下ろしをしたりもしますし、融雪溝にまとめて落として溶かしたりもしますが、時間がかかるので裏庭や公園に運んだりもします。この冬は雪下ろし中に命を落とす人が多くてニュースになっていました。


2017年2月2日木曜日

2017年 1月短歌と合評



 担当: 宇津木千代

今月の短歌は中井 久游さんの歌に興味をそそられました。時々、講評などで「もっと具体がないと理解できない、具体が欲しい」と言われますが、そういう場合もありますが、時には具体がないゆえに、読者が様々なことを想像できる余地ができて、歌が膨らみます。この歌も、そういう意味で、とても興味を惹かれました。風船の中に空気がまだある、ということから、そこには絶望ではなく、まだ改められる可能性がある。その可能性を考える時に様々な可能性が想像できて面白いなあ、と思いました。もしかして、息子さんは、家庭を持っていて、夫婦仲があまり順調ではない状態である。でも、まだ息子さんの心根次第で、なんとかなる可能性(空気がある)があるから、頑張れ、と息子さんを励ました、というふうにもとれます。また、職場でのさまざまな出来事で、息子さんが悩んでいて、退職しようかなど考えていたとして、まだ絶望ではない、まだ息子は職場で生き延びていく可能性はある、ということか。ただ、”ああそうですか”で終りの歌ではなく、読者をして深みに引きずっていく歌だと思いました。



原歌:風船にまだ空気ありて改むに遅くはなきを息子(こ)に伝へたり

(千代)いろいろなことが想像できる歌ですね。風船は家庭内のことか?職場のことか、あるいは年齢的なことか、なかなか興味深い歌と、読みました。
(北里)「改めるのに遅いということはない」という内容と「風船の空気」の関係がわかりませんでした。アメリカの諺か何かストーリーが隠されているのだと思うのです
が。
(白樺) 風船と空気の関係で息子さんの大きな潜在力、可能性、将来的課題を連想させるお歌です。

最終歌 *風船にまだ空気ありて改むに遅くはなきを息子(こ)に伝へたり