担当:北里かおる
元歌:墨の香は解き放たれて吾を染む書道部屋なるドアを開ければ
最終歌:墨の香は解き放たれて吾を染む書道部屋なるドアを開ければ
題詠は「染める」でした。今回は着眼点に感心した宇津木さんの歌を取り上げました。
染料が何か物を染めるという当たり前の発想ではなく、目に見えない「香」が「染める」、それも「吾」を「染める」、とした発想が優れていると思いました。また、香りが漂う状況を「香」が「解き放たれる」と展開した点も詩心が感じられ、心惹かれました。
書に向き合っておられる詠み手の書道部屋には、日々に何枚も書きためた条幅作品が山のように置かれていることでしょう。ドアを開けて墨の香りをかいだ時点で、さぁ納得いくものを書くぞ、という静かな闘志が新たになるのではないでしょうか。そんな状況が目に浮かびます。やはり実体験から生まれたうたには説得力があると思いました。さわやかで勢いのある歌だと思います。
合 評
(白樺)香りに包まれるではなく「染まる」としたところが墨染の深い色合いと共に高貴な墨の香りが漂ってくるようでよいと思います。
(深沢)墨は独特の良い香りを放ちます。背筋がピンと伸びる気がします。好きなことに没頭できる自分のスペースがあることは羨ましいですね。
(北里)墨にはお香が練りこまれているので良い匂いですね。「香が吾を染める」という発想、題詠の使い方がうまいと思います。部屋に入った時、墨の匂いが体にまとわりついてくる感じが良く伝わってきます。