担当 中井久游
今月は北里かおるさんの自由詠の歌を取り上げてみます。
元歌 「蝦夷梅雨に鎮まる森の葉陰にて雨宿りする鳥を見つけき」
(千代) 蝦夷梅雨と言う言葉は、初めて見ました。忘れていたのかもしれませんが。辞書で引いてみましたら、梅雨期に北海道の南半分の地域で雨量が多くなる現象を言うのだそうですね。“森の葉陰”よりも何か大きな葉を持つ樹の名を入れた方が、この歌が生きてくるように思うのですが。
(中井)「葉陰にて」の「にて」は自分のことを指しているのか鳥の事を指しているのか曖昧です。「葉隠れ(動詞“葉隠る”の連用形が名詞化したもの)に」で解決できます。
(白樺)「蝦夷梅雨」の珍しい言葉が印象的です。雨宿りをする鳥の描写をもっと細かくして上の句に入れて「蝦夷梅雨に鎮まる森・・・」を下の句で背景にするのも歌全体に流れがでるので一案かと思います。
(北里)頂いた講評を参考に考えましたが字数がうまく合わず、視点を変えての最終歌となりました。
北海道には梅雨がないと聞いていましたが、南半分に梅雨に近い雨が降るという事この歌によって知ることが出来ました。地名や固有名詞を歌に詠む場合、どれぐらいの人が知っているものかを斟酌する必要が有るとは思いますが、あまりその事に拘ると作者の個性が削がれてしまうように思います。
今回の歌の様に、その土地ならではの言葉や表現を入れる事で歌に深みと興趣が生まれ、印象深いものになることを実感しました。固有名詞は臨場感やリアル感を生み、想像を刺激し興味を抱かせる。そのことは、歌を詠む側も、また読む側にとっても楽しい事に違いない。
一回きりの生(命)を如何に表現するかという短歌の命題を考えてみても、固有名詞の果たす役割は決して小さくはないのではないかと思った次第です。
最終歌 「蝦夷梅雨に支笏の森は鎮まりぬコゲラもモズも葉隠れなるや」