名詞の題詠が続いていましたので、6月は動詞の題詠にと思い「流れる」としました。みんなの中に色々な「流れる」ものがあり、イメージが膨らむのではと思い、どのような歌が出てくるか、楽しみにしていました。予想通り「馬の鬣」「レースのカーテン」「時」「音楽」、『流れ』という歌集のタイトル、etc、思い思いの「流れる」が描かれた短歌が出されました。ここでは中井さんの一首を取り上げます。歌の内容や詠み手の思いは合評にある通りです。私も音楽が好きなので週末にはよく何かCDを流しています。クラッシックミュージックが多いですが、合評にある詠み手のコメントを読んで、お気に入りの演奏にあえてボリュームをおさえて(雀の鳴く声が聞こえるくらい)耳を傾けている、その切り取りがおもしろく、またその気分に共感できるものがありました。
原歌;寄棟の屋根にすずめの鳴く真昼エリック・ドルフィー静かに流す
(千代)私は物凄い音楽音痴のくせに、癒し系の音楽などをいつも聴いています。クラシックなどはどのように聴くのか、教えて欲しいですね。このドルフィーという演奏家も知りませんが、インターネットで調べました。ジャズのバスクラリネット、アルト・サックス、フルート奏者,とありました。ちょっと演奏をYou tubeで聴きましたが、私には早いテンポで“静か”という表現には合わないように思いましたが、音痴の勘違いでしょうか?(中井)ジャズですから静かな音楽という範疇にはもちろん入りません。彼独特の解釈と表現は、普通のジャズとはちょっと違うのですが、ここで説明するのはちょっと無理です。私の好きなジャズメンの一人ですが、この癖のある演奏をたまに聴きたくなるんです。真昼間ですから音量を上げるわけにもいかず、敢えて「静かに流す」ことで雀の声と呼応させています。
(北里)週末に音楽を聴きながら食後のリラックスタイム、といったところでしょうか。「寄棟」とはここではどのような建物なのか、古民家のような感じですかね。最初、夏の暑い盛りの情景かと想像しましたが、スズメが鳴いているなら暑くはないかと思うと、季節はいつなのか、何か季節感のある言葉が入ると、もっと情景がはっきりしてくると思います。(中井)ここは「すすずめが鳴く真昼」がポイントです。それ以上はあまり情報を入れ込みたくはないと思いました。目の前あるありのままの情景「寄棟の屋根」とする事で、リアルさを出しました。
(白樺)エリック・ドルフィーを聞いたことがない読み手は上の句の雀の情景描写との関連がよく掴めませんが、その音楽が醸し出す雰囲気と雀の囀りがマッチしているのかもしれませんね。(中井)歌は決して万人に分かるものでなくてもいいというのが私の持論です。分からないなりにも何かを想像し、感じて戴ければいいのです。むしろ想像させるものが有る方がいい歌だとも思っています。
最終歌:寄棟の屋根にすずめの鳴く真昼エリック・ドルフィー静かに流す