12月の短歌と合評
担当:深沢
今月の短歌は宇津木さんの歌をとりあげました。
最初の詠草を開けた時から気にかかっていた歌でした。理由は仕事柄、個人データを毎日相当量を扱います。そのため、こまめに書類をシュッレーダーにかけることが必要となります。個人情報の流出は、ベネッセの事件のように不正アクセスに基づくものばかりではなく、実は身近な「うっかりミス」から引き起こしているケースが少なくありません。個人情報の漏えいは「管理ミス」「誤操作」「紛失・置き忘れ」が殆どです。歌が自分の生活に密着しているため初句のうかつにはという言葉にひかれました。人間、うっかりは日常茶飯事にあることですが、ごみである紙屑さえも捨てるのに気を遣わなければいけなくなった時勢に対する切り取りは読み手がとても理解しやすく、より印章を強くさせています。
宇津木千代
うかつには紙くずさえも捨てられず疲れることよ信なき世とは
(白樺)上の句だけを読むと環境資源の保護のことが浮かびますが結句で「信なき世」とあるのでゴミ箱に捨てられた文書等が悪用されることを切り取ったお歌ですね。現代の情報社会をうまく捉えています。)
(中井)本当にそうですね。個人の秘密が勝手に一人歩きする時代、芸能人は収集場所に出すゴミまで気を使う必要があるようです。この歌は、上の句で一旦切った方がその思いが強まる様に思いました。「うかつには紙くずさえも捨てられぬ」(千代:“ず”は、打消しの終止形です。“ぬ”は連体形です。捨てられぬ場所 とか体言を修飾します。完了の“ぬ”と間違っているのでは?)
(北里)「迂闊にゴミは捨てられぬ」から、刑事コロンボでゴミ箱に捨てられていたガムに残った歯型から犯人を突き止めるというのがあったなと。この歌にはどのようなストーリーが隠されているのでしょうか。事件は夫婦間、ご近所、やはり職場でしょうか?家でも職場でも個人情報が入っているような書類は全てシュレッダーにかけるのが当たり前の時代、以前はどうしていたのかも思い出せません。「疲れることよ」と嘆かれると、そうですね、と思いますが、もうひとつ突っ込んで何か言ってもらいたいような気がします。(千代:そこまで言わなくとも、という理屈でない短歌の世界があると思うのですが。しかし、この歌は結論を言ってしまっていますね。推敲の余地ありです。)
うかつには紙くずさえも捨てられず拾ひなほしてハサミで刻む